大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

広島地方裁判所呉支部 昭和47年(ワ)38号 判決

原告

刎田テルコ

ほか二名

被告

高田敬一

ほか二名

主文

一  被告らは各自

(一)  原告刎田テルコに対し、金一〇二万二七二三円及び内金九二万二七二三円に対する昭和四六年一〇月一日から

(二)  原告刎田浩美、同刎田さとみに対し、それぞれ金一七万九一六三円及びこれに対する昭和四六年一〇月一日から

各支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

二  原告らのその余の請求を棄却する。

三  訴訟費用は、これを六分し、その五を原告らの負担とし、その余を被告らの負担とする。

四  この判決は、主文第一項に限り、仮に執行することができる。

事実

第一請求の趣旨

一  被告らは各自

(一)  原告刎田テルコに対し、金二八二万二九七四円及び内金二七二万二九七四円に対する昭和四六年一〇月一日から

(二)  原告刎田浩美、同刎田さとみに対し、それぞれ金二一一万四〇七四円及びこれに対する昭和四六年一〇月一日から各支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

二  訴訟費用は被告らの負担とする。

との判決並びに第一項につき仮執行の宣言

第二請求の趣旨に対する答弁

一  原告らの請求を棄却する。

二  訴訟費用は原告らの負担とする。

との判決

第三原告らの請求原因

一  事故の発生

訴外刎田利三(以下「訴外利三」という。)は、次の交通事故によつて死亡した。

(一)  発生時 昭和四六年九月二三日午後九時頃

(二)  発生地 呉市本通五丁目一一番九号日本コンロ前国道一八五号線道路上

(三)  加害車 自動二輪車(一広島う四八四六号)

運転者 被告敬三

(四)  熊様 被告敬三は、加害車を運転して時速約四〇キロメートルの速度で呉市本通六丁目方面から同三丁目方面へ向つて進行中、本件事故現場を右から左へ横断歩行中の訴外利三の腹部に加害車右側ハンドルを激突転倒させた。

(五)  訴外利三は、右事故により内臓破裂の重傷を負い、その結果翌二四日午後八時五四分死亡した。

二  責任原因

(一)  被告敬一、同サカエ関係

1 自賠法三条による責任

被告敬三は、本件事故当時高校二年に在学中のもので資産収入は皆無であり、その親権者として監護教育の任にあたる被告敬一、同サカエが被告敬三の衣食住その他一切の費用を賄つていたのであつて、加害車の購入代金、管理諸費用も被告敬一、同サカエが負担したものである。また、加害車が被告敬三の所有であるとしても、親権者たる被告敬一、同サカエは、子の財産管理権にもとづいて加害車を直接的又は間接的に常時保有しているものである。したがつて、被告敬一、同サカエは、加害車の運行供用者として、本件事故によつて原告らに生じた損害を賠償する責任がある。

2 民法七〇九条による責任

親権者は未成年の子の監護教育並びにその財産を管理保管する権利義務を有する。被告敬三は、本件事故発生の僅か三か月余前(昭和四六年六月九日)に自動車運転免許を取得したもので、運転経験が浅く運転技術も未熟であつたのに、高校の同級生数名と夜釣をするため午後八時四〇分頃自宅から加害車に乗つて音戸方面へ行く途中本件事故を起したものであるから、そのような場合、親権者たる被告敬一、同サカエとしては、被告敬三に危険率の高い夜間運転を中止させるか、又は適当な注意を与えるべきであつた。しかるに、被告敬三に運転を放任し、危険を未然に防止すべき監督上の措置を講じなかつた過失により本件事故を惹起するに至らしめたのであるから、被告敬一、同サカエは不法行為者として本件事故により原告らに生じた損害を賠償する責任がある。

(二)  被告敬三関係

本件事故現場は舗装された片側三車線の広い道路で見通しは極めて良好であり、本件事故当時は交通量の少ない時間帯であつた。ところが、被告敬三は、先行中の友人の単車を見失うまいとそれのみに注意を奪われ、前方注視を怠つたまま進行したため二ないし三メートル手前に接近するまで訴外利三に気付かず、慌てて急停車の措置をとつたが間に合わず衝突するに至つたものである。被告敬三が前方を注視していたならば、白いカツターシヤツを着用した訴外利三が中央分離帯から車道へ歩き出たとき直ちにこれを発見し、加害車の進路を僅かに左寄りに変えることによつて容易に衝突を避け得た筈であるから、本件事故はもつぱら被告敬三の運転上の過失に起因するものであり、被告敬三は不法行為責任を免れない。

三  損害

(一)  葬儀費用

原告テルコは、訴外利三の事故死に伴い葬儀費用一〇万八九〇〇円を支出した。

(二)  訴外利三に生じた損害

1 逸失利益

訴外利三は、死亡時四〇才で塗装工として平均日額三、〇八一円の賃金を得ていたものであるから、一か月稼働日数二五日、余命年数三一・七三年(第一二回生命表による。)のうち二五年間を稼働可能、生活費を収入の四割としてホフマン式計算法により年五分の中間利息を控除した逸失利益の現価を算定すると八八四万二二二三円になる。

2 相続関係

原告テルコは訴外利三の妻、原告浩美、同さとみは子であつて、訴外利三の死亡により共同相続人として各三分の一の割合で同訴外人の損害賠償請求権を承継取得した。

(三)  原告らの慰藉料

原告らは、夫又は父である訴外利三を本件事故によつて失つたものであつて、これによつて蒙つた精神的損害を慰藉するには、原告テルコに対し一〇〇万円、原告浩美、同さとみに対し各五〇万円が相当である。

(四)  損害の填補

原告らは、本件事故に対する自賠責保険金四〇〇万円の支払を受け、これを前記(二)の損害の填補に充当した。

(五)  弁護士費用

以上により、被告らに対し、原告テルコは二七二万二九七四円、原告浩美、同さとみはそれぞれ二一一万四〇七四円を請求し得るものであるところ、被告らはその任意の弁済に応じないので、原告らは弁護士たる本件原告ら訴訟代理人に取立を委任し、原告テルコが弁護士費用として一〇万円を支払つた。

四  結論

よつて、被告らに対し、原告テルコは二八二万二九七四円及び内金二七二万二九七四円に対する事故発生日の後である昭和四六年一〇月一日から、原告浩美、同さとみはそれぞれ二一一万四〇七四円及びこれに対する前同様昭和四六年一〇月一日から各支払済みまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を求める。

第四被告らの事実主張

一  請求原因に対する答弁

(一)  第一項は認める。

(二)  第二項はすべて争う。

1 加害車は、被告敬三が祖母マサノから貰つた一〇万円及び自己名義の預金を合わせて購入したもので、被告敬三の所有であり、自賠責保険契約も被告敬三が契約者となつている。しかも、加害車は、もつぱら被告敬三の通学又は遊びのために使用され、その維持管理費は同被告が支弁していたのであるから、被告敬一、同サカエは加害車の運行供用者ではない。

また、被告敬三は本件事故当時一六才で責任能力を有するものであるから、そもそも被告敬一、同サカエが監督義務者の責任を問われる理由はなく、仮にこの点を措くとしても、右被告らは加害車に同乗していたわけではなく、従前被告敬三に事故歴もないのであるから、本件事故発生について被告敬一、同サカエが監督義務を怠つたということはできない。

2 本件事故は、後記のとおり訴外利三の一方的な重大な過失に起因するものであつて、被告敬三にとつては不可抗力による事故というほかない。

(三)  第三項中、(二)の1のうち訴外利三の死亡時年令及び2の事実、(四)の事実は認めるが、その余は争う。

二  事故態様に関する主張

本件事故現場は片側三車線の交通量の多い国道で、中央に幅員三メートル、高さ約三〇センチメートルの分離帯が切れ目なく設けられ、その上には高さ約二メートルの杉が植えられている。また、歩車道は截然と区別され、その境界にはガードレールが設置され、事故現場近くに横断歩道橋があるほか、南北いずれも四〇ないし五〇メートル離れた地点に信号機の設置された交差点及び横断歩道が存在する。本件事故発生当時、事故現場は周囲の商店街の照明がなく、特に中央分離帯附近は暗かつたのであるが、訴外利三は、飲酒のうえ右のとおり横断が禁止された路上を横断歩行し、中央分離帯の木陰から加害車の進路前方九・五メートルの車道上に小走りに出てきたものであり、被告敬三としては、中央分離帯から横断者が出てくることは予想し得ない事態であつたばかりでなく、当時加害車の速度は時速約四〇キロメートルでその制動距離が約一六メートルであつたから、被告敬三にとつては衝突を防止することは不可能であつた。

三  抗弁

(一)  免責(被告敬一、同サカエ)

右のとおりであつて、仮に被告敬一、同サカエが加害車の運行供用者であるとしても、本件事故は、訴外利三の一方的過失に起因するものであり、被告敬三に運転上の過失はなく、加害車に構造上の欠陥及び機能の障害はなかつたのであるから、被告敬一、同サカエは自賠法三条但書により責任を負わない。

(二)  過失相殺(被告全員)

仮に被告らに損害賠償責任があるとしても、右のとおり被害者たる訴外利三に重大な過失があつたのであるから、賠償額算定にあたつて右過失を斟酌すべきである。

(三)  弁済

被告敬一は、昭和四六年一二月三〇日原告テルコに対し、本件事故による損害の賠償(生活費の一部)として一〇万円を支払つた。

第五抗弁事実に対する原告らの答弁

一  抗弁(一)は争う。

二  同(二)は争う。

訴外利三が事故現場附近に設置された横断歩道橋を歩かなかつたとしても、本件事故発生時は車両交通量の少ない時間帯であつたうえ、本件事故地点と右歩道橋は場所的に相当離れているのであるから、歩行者にわざわざ遠回りして歩道橋による横断を期待するのは非常識であり、歩道橋による横断をしなかつたことと本件事故との間に直接の因果関係はない。

三  同(三)は認める。

第六証拠関係〔略〕

理由

一  事故の発生

(一)  請求原因第一項の事実は当事者間に争いがない。

(二)  そこで、本件事故の態様について検討する。

〔証拠略〕を総合すると、次の事実が認められる。

1  本件事故現場の国道一八五号線は、中央に幅員三メートルの分離帯をはさんで片側三車線(幅員九・三メートル)のアスフアルト舗装された道路で、中央分離帯は車道より若干高く、本通六丁目の交差点から本通五丁目の交差点まで切目なく続いており、その上には対向車の前照燈の光を遮蔽するため五ないし六メートル間隔でほぼ人の背丈くらいの高さの杉木が植えられていた。本件事故当時現場附近に街灯はなく、交通量が少なくたまたま対向車もなかつたため道路上はかなり暗い状況であつた。また、本件事故現場より二十数メートル北東(本通六丁目寄り)の地点には横断歩道橋が設置されていた。

2  被告敬三は、高校の同級生五名と音戸へ夜釣りに行くため加害車を運転し、前記本通六丁目の交差点を右折して国道一八五号線を本通五丁目方面へ向つて時速約四〇キロメートルの速度で進行した。当時交通量は少なく、加害車の前方約四〇メートルのところに同級生の藤之原運転の自動二輪車と後方約五〇メートルのところを同じく面迫運転の自動二輪車が同一方向に進行していたほか他に車両はなかつた。被告敬三は、事故現場附近では前照燈をスモールに切換えて三車線のうち中央車線を走行していたところ、進路前方斜右の車道上に白いカツクーシヤツを着用し小走りに出て来た訴外利三の姿を発見したが、急制動の措置をとることなくそのまま更に進行し、中央分離帯との間隔三・九メートルの地点で加害車の右ハンドルが訴外利三の腹部に衝突し、訴外利三は一・八メートル跳ね飛ばされて転倒し、他方加害車も衝突地点から南方九・二メートル離れた地点に転倒停止し、被告敬三はその反動でそこから更に四・三メートル南西の車道上に投げ出された。

3  訴外利三は、本件事故当日午後七時頃飲酒して帰宅し、その後間もなく再び外出したものであるが、事故発生当時も酒臭い匂をさせていた。

以上の事実が認められ、右認定を覆すに足りる証拠はない(〔証拠略〕中、被告敬三が訴外利三を発見した地点及びその時訴外利三がいた地点は、いずれも現場に何ら痕跡をとどめない地点であつて、実況見分に立会つた被告敬三の指示説明にもとづく記載であるから、それ自体必ずしも正確性を保し難いものであるうえ、〔証拠略〕と対比すると、そのまま採用することはできない。)。

右認定の事実によると、訴外利三の衝突地点と中央分離帯との間隔(三・九メートル)からみて、訴外利三が中央分離帯を越えて被告敬三の進路前方車道に小走りに姿を現わしてから衝突までの間少くとも三秒程度を経過しているものと推認され、このことから、加害車の速度が前記のとおり時速約四〇キロメートルであつたとすると秒速一一・一〇メートルであるから、訴外利三が中央分離帯から車道に出たとき被告敬三は約三三メートル手前を進行していたことになるのであつて、被告敬三が前照燈を通常の光度で照射し、前方を注視していたならば、現場附近に照明がなく暗かつたとしても、その時点で直ちに白いカツターシヤツを着用した訴外利三の姿を発見し得た筈である。そして、当時交通量は少なく、加害車後方近くに追尾する車両はなかつたのであるから、幅員九・三メートルの車道の中央車線を走行していた被告敬三としては、右の時点で訴外利三を発見していたならば、進路を左側(歩道寄り)に変更するなど本件事故発生を回避するための適切な措置を講じ得たにも拘らず、被告敬三は、対向車がなく本件事故現場附近は暗かつたのに前照燈の光度を減じたまま走肩し、前方注視義務を怠つたため訴外利三の発見が遅れたものといわざるを得ず、被告敬三は本件事故発生につき右の点において過失の責を免れない。他方、訴外利三は、夜間飲酒して近くに横断歩道橋が設置されているのに暗い車道を横断し、その際車道を進行接近してくる車両の有無、動静に充分注意を払わなかつたため本件事故に遭遇したものというべきであり、両者の過失割合は、訴外利三六対被告敬三四と認めるのが相当である。

二  責任の帰属

(一)  被告敬一、同サカエについて

1  運行供用者責任の有無について検討する。

〔証拠略〕を総合すると、被告敬三は、高校の友人が殆んど単車を持つていることから自分も欲しくなり、昭和四六年七月七日頃同居している祖母マサノに頼んで一〇万円を出してもらい、残額は山手郵便局の同被告名義の貯金を引き出し、友人に紹介された東部ホンダモータースへ同被告自身が行つて加害車を買入れ、代金一九万九〇〇〇円のところ二万五〇〇〇円値引を受け、自賠責保険料八、三五〇円、登録料二〇〇〇円を含め一八万四三五〇円を現金で支払つたこと、被告敬三は、加害車をたまに通学に使用したほかもつぱら遊びの目的で乗り回わし、ガソリン代等維持費は自分の小遣で賄つていたこと、被告敬一は板金工で普通乗用車を所有しており、かねて被告敬三が単車を買うことに反対の意見であつたので、事前に被告敬三から加害車の購入について相談を受けたことはなく、購入後もこれを被告敬一の仕事のために利用したことはなかつたこと、の諸事実が認められ、右認定を覆し得る証拠はない。

右認定の事実によると、加害車の所有者は被告敬三であり、同被告が加害車の運行を支配していたのであつて、被告敬一、同サカエは未だその運行を指示制御していたとは認め難く、また、その運行利益も享受していなかつたものといわざるを得ないから、被告敬一、同サカエは本件事故につき運行供用者としての責任を負わないものである。

2  次に監督義務懈怠による不法行為の成否について検討する。

〔証拠略〕を総合すると、被告敬三は、昭和二九年一一月九日生で本件事故当時呉港高校二年に在学中(年令一六才一〇か月余)で肉体的精神的成熟度は未だ低く、自動二輪車の運転免許を取得した時期は昭和四六年六月九日で運転経験僅か三か月余に過ぎなかつたこと、被告敬一は、被告敬三が加害車を買うことに反対であつたにも拘らず、同被告が勝手に加害車を購入し、遊びの目的で乗り回わしていてもこれを放任し、格別運転について厳重な注意を与えたことはなかつたこと、本件事故当日も被告敬三は夜間自宅から加害車を運転して遊びに出かけたのであるから、その父母である被告敬一、同サカエとしては、被告敬三の行動を充分把握し、未だ運転経験の浅い若年の息子が、昼間に比べ危険の多い夜間必要もないのに加害車を運転することを制止するなり、安全運転についての注意を喚起するなど事故の発生を防止するため監督義務を尽すべきであつたのに、被告敬一、同サカエが右のような措置を講じた形跡はないこと、の諸事実が認められ、右認定を覆すに足りる証拠はない。

未成年者の法定の監督義務者である親権者がその監督義務を怠り、そのため未成年者の加害行為が発生した場合には、当該未成年者が責任能力を具備しているときでも、親権者の監督義務懈怠と損害の発生との間に相当因果関係が認められる限り、親権者は被害者に対し、不法行為による損害賠償義務を負担するものと解すべきところ、右認定の事実及び前記本件事故の態様に照らすと、被告敬一、同サカエには、その親権に服する未成年の子である被告敬三に対する監督義務を怠つた過失があり、右過失に起因して本件事故が発生したものと認めるのが相当であるから、被告敬一、同サカエは、いずれも不法行為者として、本件事故によつて原告らが蒙つた損害を賠償する責任を免れない。

(二)  被告敬三について

本件事故の発生が被告敬三の過失に起因することは前記のとおりであるから、被告敬三が不法行為者として本件事故により原告らに生じた損害を賠償する責任を負うことは明らかである。

三  損害

(一)  葬儀費用

〔証拠略〕によると、原告テルコは、訴外利三の事故死に伴い葬儀費用として一〇万八九〇〇円を要したことが認められる。

(二)  訴外利三について生じた損害

1  逸失利益

〔証拠略〕を総合すると、訴外利三は死亡時四〇才の健康な男子で塗装工として勤務し、平均一か月二五日稼働して日額三〇八一円の収入を得ており、これによつて妻及び長女、次女の四人家族の生計を維持していたことが認められる(以上のうち訴外利三の死亡時年令は当事者間に争いがない。)。

そうすると、訴外利三の平均余命は三三・四二年であつて(昭和四六年簡易生命表による。)、そのうち六三才に達するまで二三年間は稼働可能と認めるのが相当であるから、生活費控除割合を四割とみて右期間の純利益の現在価値をホフマン式単利年金方式により算出すると八三四万三七一六円(円未満四捨五入。以下同様)となる。

2  相続関係

原告らの相続関係は当事者間に争いがないから、原告らは訴外利三の損害賠償債権をそれぞれ三分の一(二七八万一二三九円)づつ承継取得したものである。

(三)  原告らの慰藉料

〔証拠略〕によると、原告らは、本件事故によつて一家の主柱である訴外利三を失い、将来親子三人の生計をいかにして維持すべきか途方にくれている状態であり、これによつて蒙つた原告らの精神的苦痛を慰藉するには、原告テルコに対し三〇〇万円、原告浩美、同さとみに対し各一〇〇万円をもつてあてるのが相当である(慰藉料の額については、原告ら主張の範囲内に制限拘束されるものではないと解する。)。

四  過失相殺

本件事故発生について訴外利三と被告敬三の双方の過失割合が六対四と認められることは前記のとおりであるから、右を斟酌すると、原告テルコは二三五万六〇五六円、原告浩美、同さとみは各一五一万二四九六円の損害賠償請求権を取得すべきことになる。

五  損害の填補

原告らが右損害の填補として自賠責保険金四〇〇万円の支払を受けたことは原告らの自認するところであるから、これを原告ら三名に均分して一三三万三三三三円宛充当することとし、また、原告テルコが被告敬一から右損害の填補として一〇万円の支払を受けたことは当事者間に争いがない。

六  弁護士費用

そうすると、原告テルコは九二万二七二三円、原告浩美、同さとみは各一七万九一六三円の各支払を被告らに求め得るところ、〔証拠略〕を総合すると、被告らはその任意の支払をなさなかつたので、原告らは已むなく弁護士である原告ら訴訟代理人にその取立を委任し、原告テルコにおいて弁護士費用として一〇万円を支払つたことが認められ、右認定に反する証拠はない。そして、本件事案の内容、審理の経過、認容額等に照らすと、原告テルコの右出捐は本件事故と相当因果関係に立つ損害と認められる。

七  結論

以上の次第で、被告らに対し、原告テルコは一〇二万二七二三円及び内金九二万二七二三円に対する本件事故発生の後である昭和四六年一〇月一日から、原告浩美、同さとみはそれぞれ一七万九一六三円及びこれに対する前同様昭和四六年一〇月一日から各支払済みまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を求め得るので、原告らの本訴請求を右認定の限度で認容し、その余は失当であるから棄却し、訴訟費用の負担について民事訴訟法九二条、九三条を、仮執行の宣言について同法一九六条を適用して主文のとおり判決する。

(裁判官 島田禮介)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例